なかなかサハロフの射精説は西側諸国においては採用されませんでしたが、1984年オリンピック後のロサンゼルスで起こった婦女暴行事件の裁判で陪審が射精説を採用したことで注目を集めます。言うまでもなく1984年のロサンゼルスオリンピックを、ソ連を初めとする東側諸国はボイコットしています。これは、1980年のモスクワオリンピックを西側諸国がソ連によるアフガニスタン侵攻に抗議してボイコットしたことによる報復処置なのですが、そのように冷戦というものが政治に関心の薄い庶民にも目に見える形で具現化されたと言う意味で、冷戦ムードが最高潮に達した時期とも言えるわけです。そうした時期にソ連の学者の説が陪審で採用されたことは世論に衝撃を与え、そしてその衝撃は学会、そして政界へと波及します。元々この婦女暴行事件は全米の注目を集めた事件でした。白人青年の容疑者(被害者は黒人女性だった)を白人ばかりの陪審員が裁くと裁判で、当初から被告人に有利な判決が出るのではないかと憶測が飛んでいました。そして、事実、陪審は白人青年を無罪とするために「被告人は女性の膣内に男性器を挿入したものの、射精するに至らず(中略)学会の定説たる「射精説」によればこれは強姦に該当しない」(陪審による意見陳述書)としたのです。
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